東京高等裁判所 昭和61年(ネ)61号 判決
一 申請の理由1(控訴人は本件意匠権の意匠権者であること)及び3(被控訴人は、昭和五九年七月ころから別紙イ号図面表示のイ号物件を製造し、「スノーブレカー」の名称で販売していること)の事実は、当事者間に争いがない。
二 本件意匠の構成について
申請の理由2の事実は、刷毛群が丸棒の長さの約五分の一にわたつて取り付けられている点を除いて当事者間に争いがなく、右争いのない事実と、成立に争いがない疎甲第二、第六号証によれば、本件意匠の構成は次のとおりであることが一応認められる。
1 柄部の一端に霜掻きとり部が、他端に刷毛群がそれぞれ取り付けられている自動車用霜とり具であること。
2 柄部は丸棒から成るものであること。
3 霜掻きとり部の形状等は次のとおりであること。すなわち、
長さを丸棒の長さの約三分の一、上下幅を丸棒の長さの約一〇分の一として、その上側辺を外方に向け若干拡開させ、その下側辺を断面鋭角の二枚翼として外方に向け若干拡開させた溝形形状の金具(フレーム)が、その中央において丸棒の軸線方向に直角に取り付けられ、フレームには、上側辺にその全長にわたつて先端を斜め上向きのエツジ部とする霜掻きとり部材(こすりとり部)を固着するとともに、下側辺にその全長にわたつて先端を斜め下向きのエツジ部とする霜掻きとり部材(払拭部)の基部を前記二枚翼間に挟着して取り付けたものであること。
4 刷毛群の形状等は次のとおりであること。すなわち、丸棒の長さの約六分の一にわたる部分に、丸棒の長さの約一七分の一の長さの毛先を有する刷毛八束を、植毛方向がフレームの長手方向と平行で、かつ、一直線上に並列して取り付けたものであること。
三 イ号意匠の構成について
申請の理由4の事実は、フレームの形状につき、上面の一側寄りが上方に曲り、他の辺部が下辺に折れ曲つている点を除いて当事者間に争いがなく、右争いのない事実、前記のとおりイ号意匠を示すものであることについて当事者間に争いのない別紙イ号図面の記載、及び原審証人市川松男の証言によりイ号物件であると一応認められる疎検甲第二号証を総合すると、イ号意匠の構成は次のとおりであることが一応認められる。
1 柄部の一端に霜掻きとり部が、他端に刷毛群がそれぞれ取り付けられている自動車用霜とり具であること。
2 柄部は丸棒から成るものであること。
3 霜掻きとり部の形状等は次のとおりであること。すなわち、
長さを丸棒の長さの約四分の一、上下幅を丸棒の長さの約一三分の一として、その上側辺を外方に向け若干拡開させ、その下側辺を断面鋭角の二枚翼としてやや後方に向けて成るジグザグ状の金具(フレーム)が、その中央において丸棒の軸線方向に直角に取り付けられ、フレームには、上側辺にその全長にわたつて先端を斜め上向きのエツジ部とする霜掻きとり部材(こすりとり部)を固着するとともに、下側辺にその全長にわたつて先端を下向きのエツジ部とする霜掻きとり部材(払拭部)の基部を前記二枚翼間に挟着して取り付けたものであること。
4 刷毛群の形状等は次のとおりであること。すなわち、
丸棒の長さの約五分の二にわたる部分に、丸棒の長さの約一二分の一の長さの毛先を有する刷毛二四束を、植毛方向がフレームの長手方向と直角で、かつ、一直線上に並列して取り付けたものであること。
四 本件意匠とイ号意匠の類否について
1 控訴人は、被控訴人の前記一のイ号物件の製造、販売は権原なしに本件意匠を実施する行為であつて本件意匠権を侵害するものであると主張する。右主張の成否は、主としてイ号意匠が本件意匠に類似するかどうかによつて決せられるところ、このような場合、意匠の類否を判断するに当たつては、意匠全体との関係において意匠を見る者の注意を強く惹くものと評価し得る部分を当該意匠の要部として把握し、その要部の共通性の有無、程度の観点から類否を決すべきであり、もし当該意匠に公知意匠に表出された公知の形状が含まれているときには、特段の事情がない限り、右公知の形状は強く看者の注意を惹く部分ではないと認められるから、その部分は意匠の類似範囲を画定するための要部とはならないものと評価するのが相当である。
そこで、まず、公知意匠の存在について検討する。
昭和三四年一月六日特許庁資料館に受け入れられた米国特許第二、八五六、六二一号明細書(疎乙第三号証の一)、同年一一月二七日同資料館に受け入れられた米国特許第二、八九六、二四一号明細書(疎乙第四号証の一)、昭和三七年四月二五日同資料館に受け入れられた米国特許第三、〇一七、六四九号明細書(疎乙第五号証の一)及び雑誌「月刊自動車用品の実務(昭和四二年一二月・昭和四三年一月合併号)」(疎乙第一九号証)には、それぞれ別紙図面(一)ないし(四)に示すとおりの自動車用霜とり具の意匠が記載されていることは当事者間に争いがなく(なお、疎乙第三ないし第五号証の各一の成立は当事者間に争いがなく、疎乙第一九号証は弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる。)、右各図面によれば、疎乙第三ないし第五号証の各一、第一九号証に記載されている各意匠の構成は次のとおりであると一応認められる。
(一) 疎乙第三号証の一記載の意匠は、断面が扁平な四角形状の柄部の一端に霜掻きとり部が他端に刷毛群がそれぞれ取り付けられており、霜掻きとり部の形状は、長さを柄部の約九分の一としたたがね状の掻きとり部材と、その片面に密着して形成され、先端を右掻きとり部材のエツジ部とほぼ同位置まで突出させた他の掻きとり部材とを、先端が拡がつた台形平板状のフレームによつて取り付けたものであり、刷毛群の形状は、柄部の長さの約三分の一にわたる部分に、柄部の長さの約一二分の一の長さの毛先を有する刷毛二六束を、その植毛方向が霜掻きとり部の長手方向と平行で、かつ、一直線上に並列して取り付けたものである。
(二) 疎乙第四号証の一記載の意匠は、断面がコの字状の柄部の一端に、底辺の長さが柄部の長さとほぼ等しく、右底辺と直交する辺の長さが柄部の長さの約一・三倍である直角三角形状の二枚の平板を、柄部の延長線がこれらの平板の底辺と直交する辺と近接、平行する位置となるように、かつ、柄部がこれらの平板の内部に収納できるように取り付け、また、これらの平板の底辺には二枚の掻きとり部材を平板の中心面に関して対称に斜め外向きに拡開させて取り付けるとともに、右柄部の他端には柄部の長さとほぼ等しい長さを持ち、柄部の内部に収納できる角棒を設けて、右角棒の全長にわたり一三束の刷毛より成る刷毛群を、植毛方向が掻きとり部材の長手方向と平行で、かつ、一直線上に並列して取り付けたものである。
(三) 疎乙第五号証の一記載の意匠は、断面がI字状の角棒状の柄部(甲)の一端に霜掻きとり部が取り付けられ、他端には右柄部(甲)とほぼ等しい長さの柄(乙)が着脱自在に取り付けられて、そこに刷毛群が植毛されており、霜掻きとり部の形状は、長さを柄部(甲)の長さの約三分の一としたたがね状の掻きとり部材と、掻きとり部材の片面に密着させて形成された他の掻きとり部材とを、先端が三角形状に拡がつた平板状のフレームによつて取り付けたものであり、刷毛群の形状は、前記着脱自在に取り付けられた柄(乙)のほぼ全長にわたり、柄部全体(甲+乙)の長さの約一一分の一の長さの毛先を有する刷毛二一束を、植毛方向が霜掻きとり部の長手方向と同一で、かつ、一直線上に並列して取り付けたものである。
(四) 疎乙第一九号証記載の意匠は、柄部を縁取りのある角柱状のものとし、その中央部分に長円形の着脱自在の接合部を設け、柄部の一端にほぼ三角形状の払拭部を取り付け、他端には、柄部の長さの約二分の一にわたる部分に、柄部の長さの約一〇分の一の長さの毛先を有する刷毛二六束を、植毛方向が右払拭部の長手方向と平行に、一直線上に取り付けたものである。
疎乙第三ないし第五号証の各一及び第一九号証に記載されている前記各意匠の構成に照らして考えると、自動車用霜とり具の意匠としての「柄部の一端に霜掻きとり部を、他端に刷毛群をそれぞれ取り付ける」という基本的形状は、本件意匠登録出願前に公知であつたと認められる。疎乙第三ないし第五号証の各一及び第一九号証に記載されている前記各意匠の構成を援用して、本件意匠に係る周知の形状を「一端に一直線上に並列して取り付けた刷毛群を有する細長い同径の丸棒の他端に、上、下方に霜掻きとり部を直角に取り付けて成る」形態として把握すべきであるとする被控訴人の主張は、右乙号各証記載の各意匠の見方として当を得ないものであつて、採用できない。
そうとすると、本件意匠のうち、前記公知の基本的形状は特に看者の注意を惹くものであるということはできないから、右形状に意匠としての要部があるとは認め難く、本件意匠においては、(イ)柄部が丸棒から成ること、(ロ)上側辺を外方に向け若干拡開させ、その下側辺を断面鋭角の二枚翼として外方に向け若干拡開させた溝形形状の金具(フレーム)がその中央において丸棒の軸線方向に直角に取り付けられ、フレームの上側辺に霜掻きとり部材(こすりとり部)を固着し、下側辺の二枚翼間に霜掻きとり部材(払拭部)を挟着していること、(ハ)丸棒の長さに対する刷毛の植毛幅が小さい上、刷毛の植毛束数も少なく、毛先を短くし、刷毛群の植毛方向がフレームの長手方向と平行で、かつ、一直線上に並列して取り付けたものであることの具体的形状が看者の注意を強く惹く部分として、意匠の要部を構成するものと認めるのが相当であり、これと異なる認定とすべき特段の事情はない。
被控訴人は、本件意匠の要部は細長い丸棒の一端に、その植毛幅が丸棒の長さの約六分の一で、毛先が丸棒の長さの約二〇分の一の歯ブラシ状の刷毛を設け、丸棒の他端に、長さが丸棒の約三分の一で、コの字形溝形の二つのエツジを突出させた霜掻きとり部をT字状に設けたことにある旨主張する。しかし、柄部が丸棒から成ること、及びコの字形溝形の二つのエツジを突出させた霜掻きとり部(上側辺と下側辺とをそれぞれ外方に向け若干拡開させた溝形形状の金具《フレーム》)をT字形に設けた(フレームがその中央において丸棒の軸線方向に直角に取り付けられた)ことが本件意匠の要部に属すること前述のとおりであるが、一直線上に並列して取り付けた刷毛群を歯ブラシ状というのは単なる形容であつて、格別の意匠的意義はなく、その余の点については、本件意匠の要部を被控訴人主張のように厳密に数値的限定を持つものとして把握することは相当でなく、右主張は採用できない。2 そこで、本件意匠とイ号意匠とを対比すると、両意匠は、(1) 柄部の一端に霜掻きとり部が、他端に刷毛群がそれぞれ取り付けられている自動車用霜とり具である点、(2) 柄部は丸棒から成る点、(3) フレームの上側辺を外方に向け若干拡開させ、そこに全長にわたつて先端を斜め上向きのエツジ部とする霜掻きとり部材(こすりとり部)を固着している点、(4) フレームの下側辺を断面鋭角の二枚翼として、右二枚翼間に霜掻きとり部材(払拭部)の基部を挟着している点、(5) フレームがその中央において丸棒の軸線方向に直角に取り付けられている点、(6)刷毛群が一直線上に並列して取り付けられている点において一致しているが、(7) 本件意匠におけるフレームは、長さが丸棒の長さの約三分の一、上下幅が丸棒の長さの約一〇分の一であるのに対し、イ号意匠におけるフレームは、長さが丸棒の長さの約四分の一、上下幅が丸棒の長さの約一三分の一である点、(8) 本件意匠におけるフレームの下側辺は外方に向け若干拡開し、フレーム全体が溝形形状をなしているのに対し、イ号意匠におけるフレームの下側辺はやや後方に向けてあり、フレーム全体がジグザグ状である点、(9) 本件意匠における霜掻きとり部材(払拭部)は全長にわたつて先端を斜め下向きのエツジ部とするのに対し、イ号意匠における霜掻きとり部材(払拭部)は全長にわたつて先端を下向きのエツジ部とする点、(10) 本件意匠においては、丸棒の長さの約六分の一にわたる部分に、丸棒の長さの約一七分の一の長さの毛先を有する刷毛八束が、植毛方向がフレームの長手方向と平行に取り付けられているのに対し、イ号意匠においては、丸棒の長さの約五分の二にわたる部分に、丸棒の長さの約一二分の一の長さの毛先を有する刷毛二四束が、植毛方向がフレームの長手方向と直角に取り付けられている点は相違する。
ところで、右相違点のうち、(7)は本件意匠の要部に関しない部分の相違である。(8)は本件意匠の要部に関するものであるが、このフレーム全体の形状の相違は、本件意匠におけるフレームの下側辺が外方に向け若干拡開しているのに対し、イ号意匠におけるフレームの下側辺がやや後方に向けてあり、これに伴い、フレームの下側辺に霜掻きとり部材(払拭部)を取り付けた形状が、本件意匠においては右部材のエツジ部が斜め下向きに、イ号意匠においては右部材のエツジ部が下向きになつてそれぞれ現れることに基づく相違にすぎず、エツジ部の斜め下向きあるいは下向きといつても、断面的に捉えたエツジ部の下向き角度のごく相対的な差を示すにとどまること、両意匠は、フレームの上側辺を外方に向け若干拡開させ、そこに先端を斜め上向きのエツジ部とする霜掻きとり部材(こすりとり部)を固着し、フレームの下側辺は断面鋭角の二枚翼として、右二枚翼間に霜掻きとり部材(払拭部)の基部を挟着している点で共通していることをあわせ考慮すると、前記(8)のフレーム全体の形状の相違は微小であつて、右相違により、両意匠における霜掻きとり部が、看者に対し特に異なつた印象ないし美観を与えるものと認められない。(9)自体は本件意匠の要部に関しない部分の相違である。(10)は本件意匠の要部に関するものであるが、本件意匠における霜掻きとり部の形状は、前記公知意匠における霜掻きとり部の形状とは全く異なつていて極めて特徴的であつて、本件意匠に接する者は、刷毛群の形状、取付け方向もさることながら、それ以上に霜掻きとり部の形状により強い注意を惹かれるものと考えられることからすると、両意匠に共通する丸棒の一端に、その形状をほとんど同じくする霜掻きとり部を取り付けたことによつてもたらされるほぼ共通の美感は、両意匠における刷毛群の形状、取付け方向の相違を凌駕し、右相違は細部におけるわずかな差異にとどまるものと認めるのが相当である。
以上のとおりであつて、両意匠を対比した場合、看者に異なつた美観を与えるものとは認められないから、イ号意匠は本件意匠に類似するものというべきである。
疎乙第五六号証の記載及び原審証人古沢俊明の供述中には、イ号意匠は本件意匠に類似しない旨の記載及び供述部分が存するが、採用することができない。他に右認定を左右する疎明は見いだせない。
五 被保全権利と保全の必要性について
叙上説示のとおり、イ号意匠は本件意匠に類似するものであり、弁論の全趣旨によれば、被控訴人がイ号物件(スノーブレーカー)を製造、販売することにより本件意匠を実施する行為は権原なしにされたものであることが一応認められるから、被控訴人の右行為は本件意匠権を侵害するものであり、したがつて、控訴人は該侵害の停止及び予防として被控訴人に対しイ号物件の製造、販売及び販売のための展示の差止めを請求する権利を有するというべきである。
ところで、原審における控訴人本人尋問の結果と右尋問の結果により真正に成立したものと認められる疎甲第七号証、第一一ないし第一四号証、第一六号証の一ないし四によれば、申請外会社の取締役である控訴人(控訴人が右取締役であることは当事者間に争いがない。)は、昭和四六年一二月二〇日、申請外会社との間で、控訴人は申請外会社に対し、意匠登録出願中の本件意匠を独占的に実施することを許諾し、設定登録されたときは、その後権利の存続期間中も同様とすること、申請外会社は控訴人に対し、実施料として販売価格(工場出し値)の三%相当の金員を支払うことを内容とする契約を締結したこと、申請外会社は本件意匠の実施品を「スノー・スクレーパー」の名称で製造、販売し(申請外会社が「スノー・スクレーパー」を製造、販売していることは、当事者間に争いがない。)、その売上げ額は申請外会社の総売上げ額の五〇パーセントを占めていたこと、「スノー・スクレーパー」は北海道、東北地方等の寒冷地において好評を博していたこと、被控訴人は、「スノーブレーカー」を「スノー・スクレーパー」より安い価格で販売するに至つたこと、申請外会社の昭和五九年度(昭和五九年五月八日以降昭和六〇年三月一八日まで)における「スノー・スクレーパー」の売上げは、前年度(昭和五八年六月二八日以降昭和五九年三月三一日まで)に比べて約三万一〇〇〇本減少していること、以上の事実が一応認められる。そして、「スノー・スクレーパー」も「スノーブレーカー」も共に本件意匠の実施品であるところから、「スノーブレーカー」が申請外会社の商品であると一般に誤認、混同されることはたやすく推認できるところであるから、「スノーブレーカー」以外にも、第三者の手により本件意匠の実施品が製造、販売されていたなど特別の事情が認められない限り、申請外会社は被控訴人の「スノーブレーカー」の製造、販売により前記売上げ減少の損害を被つたものであり、今後も右損害を被るおそれがあるものと認められる。そうであるとすれば、被控訴人の前記行為により、控訴人が申請外会社との間の前記契約に基づき取得すべかりし実施料の額に減少を来したことは明らかであり、また、その状態が今後も継続するであろうことも予測できるところである。また、前掲証拠によれば、「スノーブレーカー」の出現により「スノー・スクレーパー」の値崩れを起こしていることが一応認められ、これによれば、控訴人が取得すべかりし実施料の額に一層の減少を来たしたことが窺われ、また、その状態が今後も継続するであろうことが予測されるのみならず、「スノー・スクレーパー」の商品としてのイメージが損なわれるであろうことも肯認することができる。そして、右に認定した控訴人の財産的損害はその額を確定する適確な疎明はないが、少なくない額に達するものであることは否定できない。
以上認定の事実によれば、控訴人は著しい損害を避けるため前記被控訴人の侵害行為を差止め、かつ、被控訴人の本社に存在するイ号物件(「スノーブレーカー」)を執行官に保管させる仮処分を求める必要があるものと認められる。
六 よつて、控訴人のその余の主張について判断するまでもなく、本件仮処分申請は正当であり、これを却下した原判決は失当であつて、本件控訴は理由があるから、民事訴訟法第三八六条に従い原判決を取り消して、金三〇〇万円の保証を立てることを条件に本件仮処分申請を認容する。
〔編註その一〕 本件における主文は左のとおりである。
一 原判決を取り消す。
二 控訴人が、被控訴人のため金三〇〇万円の保証を立てることを条件として、次のように定める。
1 被控訴人は、別紙イ号図面表示の形状に係る物件を製造、販売し、又は販売のため展示してはならない。
2 被控訴人の本社に存在する前項記載の物件に対する被控訴人の占有を解いて、前橋地方裁判所高崎支部執行官に保管を命ずる。
三 申請費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
〔編註その二〕 本件における当事者の主張は左のとおりである。
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴の趣旨
1 主文第一、第三項同旨
2(一) 被控訴人は、別紙イ号図面表示の形状に係る物件を製造、販売し、又は販売のため展示してはならない。
(二) 被控訴人の本社に存在する前項記載の物件に対する被控訴人の占有を解いて、前橋地方裁判所執行官に保管を命ずる。
二 控訴の趣旨に対する答弁
1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
第二 当事者の主張
一 申請の理由
1 控訴人は、左記意匠権(以下「本件意匠権」といい、その登録意匠を「本件意匠」という。)の意匠権者である。
記
(一) 意匠に係る物品 自動車用霜とり具
(二) 出願日 昭和四六年一一月一六日
(三) 登録日 昭和四八年三月一九日
(四) 登録番号 第三六三九四七号
(五) 登録意匠 別紙意匠公報に示すとおりの自動車用霜とり具の形状
2 本件意匠の構成は次のとおりである。
丸棒から成る柄部に、その一端に取り付けられた霜掻きとり部と他端に取り付けられた刷毛群から成り、
(A) 丸棒の一端に、
(B) 上面が曲面状で、長さを丸棒の長さの約三分の一、上下幅を丸棒の長さの約一〇分の一として、その上側辺を外方に向け若干拡開させ、その下側辺を断面鋭角の二枚翼として外方に向け若干拡開させた溝形形状の金具(フレーム)を、その中央において前記丸棒の軸線方向に直角に取り付け、
(C) フレームには、その上側辺にその全長にわたつて先端を斜め上向きのエツジ部とする霜掻きとり部材(こすりとり部)を固着するとともに、その下側辺にはその全長にわたつて先端を斜め下向きのエツジ部とする霜掻きとり部材(払拭部)の基部を前記断面鋭角の二枚翼間に挟着して取り付け、
(D) 他方、前記丸棒の他端には、丸棒の長さの約五分の一にわたる刷毛群を、その植毛方向がフレームの長手方向と平行で、かつ、一直線上に並列して取り付けたものである。
3 被控訴人は、昭和五九年七月ころから、別紙イ号図面表示の自動車用霜とり具(以下「イ号物件」という。)を製造し、「スノーブレーカー」の名称で販売している。
4 イ号物件の意匠(以下「イ号意匠」という。)の構成は次のとおりである。
丸棒から成る柄部に、その一端に取り付けられた霜掻きとり部と他端に取り付けられた刷毛群から成り、
(A) 丸棒の一端に、
(B) 上面の一側寄りが上方に曲り、他の辺部が下方に折れ曲り、長さを丸棒の長さの約四分の一、上下幅を丸棒の長さの約一三分の一としてその上側辺を外方に向け若干拡開させ、その下側辺を断面鋭角の二枚翼としてやや後方に向けて成るジグザグ状の金具(フレーム)を、その中央において前記丸棒の軸線方向に直角に取り付け、
(C) フレームには、その上側辺にその全長にわたつて先端を斜め上向きのエツジ部とする霜掻きとり部材(こすりとり部)を固着するとともに、その下側辺にはその全長にわたつて先端を下向きのエツジ部とする霜掻きとり部材(払拭部)の基部を前記断面鋭角の二枚翼間に挟着して取り付け、
(D) 他方、前記丸棒の他端には、丸棒の長さの約三分の一にわたる刷毛群を、その植毛方向がフレームの長手方向と直角で、かつ、一直線上に並列して取り付けたものである。
5(一) 本件意匠とイ号意匠とを対比すると、次のとおりである。
本件意匠とイ号意匠とは、丸棒から成る柄部に、その一端に取り付けられた霜掻きとり部と他端に取り付けられた刷毛群から成る基本構成、こすりとり部と払拭部を長辺が短辺の約三倍の長さにしたフレームの相対する長辺側の辺に取り付けた点、払拭部の基部が厚く先端になるに従つて漸次厚さを薄くした先端部が尖つたものであり、他方のこすりとり部は末端がずんぐりと尖つた点、柄部は長い丸棒状で、長辺が短辺の約三倍の長さから成るフレームの上面中央に、丸棒を垂直状に取り付けた点、刷毛群は、柄部の末端に寄せて繊維の束を一列に縦方向に並べ立てた点において一致し、フレームの形状について、本件意匠では上面が曲面状で、その上側辺を外方に向け若干拡開させ、その下側辺を断面鋭角の二枚翼として外方に向け若干拡開させた溝形形状のものであるのに対し、イ号意匠では上面の一側寄りが上方に曲り、他の辺部が下方に折れ曲り、その上側辺を外方に向け若干拡開させ、その下側辺を断面鋭角の二枚翼としてやや後方に向けて成るジグザグ状のものである点、刷毛群について、本件意匠では刷毛が短く、植毛方向がフレームの長手方向と平行であるのに対し、イ号意匠は刷毛が長く、植毛方向がフレームの長手方向と直角である点において相違する。
(二) ところで、昭和三四年一月六日特許庁資料館に受け入れられた米国特許第二、八五六、六二一号明細書(疎乙第三号証の一)、同年一一月二七日同資料館に受け入れられた米国特許第二、八九六、二四一号明細書(疎乙第四号証の一)、昭和三七年四月二五日同資料館に受け入れられた米国第三、〇一七、六四九号明細書(疎乙第五号証の一)及び雑誌「月刊自動車用品の実務(昭和四二年一二月・昭和四三年一月合併号)」(疎乙第一九号証)には、次のとおり自動車用霜とり具の意匠が記載されている。
(1) 疎乙第三号証の一に記載されている意匠は別紙図面(一)に示すとおりのものであつて、その構成は、断面が扁平な四角形状の柄部の一端に、長さを右柄部の長さの約九分の一としたたがね状の掻きとり部材と、その片面に密着して形成され、その先端を掻きとり部材のエツジ部とほぼ同位置まで突出させたゴム製の掻きとり部材とを、先端が拡がつた台形平板状のフレームによつて取り付けた霜掻きとり部と、他端に柄部の長さの約三分の一にわたる刷毛群を掻きとり部材の長手方向と平行で、かつ、一直線上に並列して取り付けた刷毛群から成るものである。
(2) 疎乙第四号証の一に記載されている意匠は別紙図面(二)に示すとおりであつて、その構成は、断面がコの字状の柄部の一端に、底辺の長さが柄部の長さとほぼ等しく、右底辺と直交する辺の長さが柄部の長さの約一・三倍である直角三角形状の二枚の平板を、柄部の延長線が底辺と直交する辺とほぼ一致する位置となるように、かつ、柄部がこれらの平板の内部に収納できるように取り付け、また、これらの平板の底辺には二枚の掻きとり部材を平板の中心面に関して対称に斜め外向きに拡開させて取り付けるとともに、右柄部の他端には柄部の長さとほぼ等しい長さを持ち、柄部の内部に収納できる角棒を設けて、右角棒の全長にわたり刷毛群をその植毛方向を掻きとり部材の長手方向と平行で、かつ、一直線上に並列して取り付けたものである。
(3) 疎乙第五号証の一に記載されている意匠は別紙図面(三)に示すとおりのものであつて、その構成は、断面がI字状の角棒状の柄部の一端に、長さを柄部の長さの約三分の一としたたがね状の掻きとり部材と、掻きとり部材の片面に密着させて形成された掻きとり部材とを、先端が三角形状に拡がつた平板状のフレームによつて取り付けるとともに、柄部の他端には柄部と等しい長さの柄を着脱自在に取り付け、右柄の全長にわたり、刷毛群をその植毛方向が掻きとり部材の長手方向と平行で、かつ、一直線上に並列して取り付けたものである。
(4) 疎乙第一九号証に記載されている意匠は別紙図面(四)に示すとおりのものであつて、柄部は縁取りのある角柱状であり、その中央部分に長円形の着脱自在の接合部が設けられ、柄部の一端にはほぼ三角形状の払拭部が取り付けられ、柄部の他端に刷毛群が一直線上に並列に取り付けられているものである。
以上疎乙第三ないし第五号証の各一、第一九号証に記載されている公知意匠と本件意匠とを対比すると、両者に共通しているのは、柄部の一端に霜掻きとり部が、他端に刷毛群が取り付けられているという点だけであり、霜掻きとり部及び柄部の各形状、柄部と霜掻きとり部の結合の部位及び結合角度、刷毛群の量は相違している。したがつて、本件意匠のうち公知の部分は、柄部の一端に霜掻きとり部が取り付けられており、他端に刷毛群が取り付けられているという形状以上に出ないものである。
(三) 本件意匠の構成及び右構成のうち公知である部分を考慮すると、本件意匠において、「一端に一直線上に並列して取り付けた刷毛群を有する細長い同径の丸棒の他端に、上、下方に霜掻きとり部材を取り付けた霜掻きとり部を直角に取り付けて成る」ものとしたことにより、全体として柔かく、立体的で、使い易い印象を看者に与えるものであつて、右の構成に本件意匠の要部が存するものというべきである。
そして、イ号意匠は、本件意匠における右要部を備え、看者に与える印象も本件意匠と同様であるから、イ号意匠は本件意匠に類似するものである。
(四) 本件意匠とイ号意匠とは、フレームの形状に前記のとおりの相違があるが、両意匠に係る物品が自動車用霜とり具であることからすると、フレームの断面形状の差異はほとんど目立たず、むしろ霜掻きとり部で目立つ部分は霜掻きとり片部の態様であり、その点では両意匠の態様は共通しているから、その保持部材であるフレームの形状の差異は目に付くところではない。その上、両意匠ともフレームの形状はその長辺が短辺の約三倍の長さから成るものである点を考慮すると、フレームの形状の前記差異は微差にすぎず、全体からみても細部の差異にすぎない。また、両意匠には、刷毛群につき前記のとおりの相違があるが、毛足の長短、織維の多少は量によつて目立つことによる差異にすぎず、このことは、物品の形状の同一性を、それに色彩を施すことにより別個の意匠に見せようとする例と同じであつて、類否判断の支配的要素となるものではない。むしろ、自動車用霜とり具としての意匠に係る形状としてみるとき、霜雪を取る機能を有する刷毛群が柄部の一方の末端に位置し、織維の束を一列に縦方向に並べたことが強い印象を与えるものであつて、その共通点に比較すれば、毛足の長短、織維の多少は限られた部位におけるわずかな差異で、全体の類否判断に大きな影響を与えるものではない。刷毛群の取り付け方向の差異も、看者が本件意匠及びイ号意匠を見る場合、いかなる角度から見ても刷毛群を容易に見ることができるのであり、その取り付け角度の差異は看者に格別の印象を与えるものではなく、全体に与える影響は微弱である。
6 被保全権利及び保全の必要性は次のとおりである。
(一) 被控訴人の前記3のイ号物件の製造、販売は権原なしに本件意匠を実施する行為であつて、本件意匠権を侵害するものであるから、控訴人は被控訴人に対し、イ号物件の製造、販売及び販売のための展示の差止めを求める請求権並びに本件意匠権侵害に基づく損害賠償請求権を有する。
(二) (1)控訴人は、申請外秋田刷子製造株式会社(以下「申請外会社」という。)の取締役であるが、昭和四六年一二月二〇日、申請外会社との間で、控訴人は申請外会社に対し、当該意匠登録出願中の本件意匠を独占的に実施することを許諾し、申請外会社は控訴人に対し実施料として販売価格(工場出し値)の三%相当の金員を支払う旨の契約を締結した。(2)そして、申請外会社は、本件意匠の実施品を「スノー・スクレーパー」の名称で製造、販売し、右商品は北海道、東北地方等の寒冷地において冬期における自動車の必需品として人気を博していた。ところが、前記のとおり、被控訴人は、昭和五九年七月ころからイ号物件を「スノーブレーカー」の名称で製造、販売し、しかも、これを控訴人の「スノー・スクレーパー」よりも安い価格で卸売業者に販売するに至つた。そして、「スノー・スクレーパー」及び「スノーブレーカー」は、小売店の店頭において同一の売場に並べて販売されているが、前記のとおりイ号意匠は本件意匠に類似しているため、顧客は両者を混同し、その結果として、申請外会社の売上げの減少を来した。これを「スノー・スクレーパー」の昭和五九年度の販売量についてみると、前年度分と比較して全国の販売総数において二九四六七本、北海道札幌地区において三一三八〇本減少した。(3)このような申請外会社の本件意匠の実施品の販売量の減少及びその対応策としてとられる販売価格の低下は、控訴人が申請外会社から受け取るべき実施料の減少という損害をもたらす。また、控訴人は申請外会社の経営者の一人であり、同社の利益の低下は控訴人の減収を来すことになる。のみならず、「スノー・スクレーパー」の価格を維持できないことにより商品のイメージにとつて回復し難い損害を受けることは明らかである。
7 以上の次第であつて、直ちにイ号物件の製造、販売を差し止める等の措置をとらなければ控訴人が被る前記著しい損害を避けることができないから、控訴の趣旨2項掲記の判決を求める。
二 申請の理由に対する認否及び被控訴人の主張
1 申請の理由1の事実は認める。
2 同2のうち、刷毛群の植毛幅が丸棒の長さの約五分の一であることは否認し、その余の事実を認める。
本件意匠における刷毛群の植毛幅は丸棒の長さの約六分の一である。なお、刷毛群の形状は歯ブラシ状のものである。
3 同3の事実は認める。
4 同4のうち、フレームの形状につき上面の一側寄りが上方に曲り、他の辺部が下方に折れ曲つていることは否認し、その余の事実は認める。
5 同5(一)については後記(二)のとおりである。
同5(二)のうち、疎乙第三ないし第五号証の各一、第一九号証にそれぞれ別紙図面(一)ないし(四)に示すとおりの自動車用霜とり具の意匠が記載されていることは認める。
同(三)ないし(五)は争う。
以上述べるとおりイ号意匠は本件意匠に類似していない。
(一) 意匠の類似性を判断する核となる意匠の要部とは、物品の取引における識別性を発揮する部分であるから、物品の用途、機能から来る必然的形態のように需要者に周知の部分は識別性がなく、意匠の要部とは認められないものである。ところで、自動車用霜とり具は、第一に細長い棒の先端にT字状の霜掻きとり部分を有するもの、第二に細長い棒の一端にT字状の霜掻きとり部分を有し他端に刷毛を一直線上に並列して取り付けたもの、第三にIの字の形(ばち形)のものであるものの三つの形態に大別され、本件意匠は右のうちの第二の形態に属する。右第二の形態の公知意匠には、別紙図面(一)ないし(四)記載の各意匠があり、本件意匠とこれらの公知意匠を対照すると、控訴人の主張する、「柄部の一端に霜掻きとり部が取り付けられており、他端に刷毛群が取り付けられている」という形態にとどまらず、控訴人が本件意匠の要部として主張するものに該当する「一端に一直線上に並列して取り付けた刷毛群を有する細長い同径の丸棒の他端に、上、下方に霜掻きとり部を直角に取り付けて成る」形態は、自動車用霜とり具としての用途、機能からくる必然的形態であつて、需要者に周知の部分であり、右形態は物品の要部ではあつても、類否判断の対象となる意匠の要部ではない。
被控訴人は、本件意匠の要部を次のように理解する。すなわち、前記公知意匠と対比して検討すると、霜掻きとり部と柄部の長さとの比は、別紙図面(四)記載の意匠においては一対五であるのに対し、本件意匠では約一対二・八六であり(この比に関する原判決事実摘示第二の三、2中の被控訴人の主張は、当審における被控訴人の昭和六一年一〇月二八日付け準備書面第二、(一)中の控訴人の(4)の主張に対する被控訴人の主張によつて上記のとおり訂正されたものと認める。)、刷毛群についてみても、本件意匠における刷毛の植毛幅、毛先の長さをそれぞれ一とすると、同図面記載の意匠における刷毛の植毛幅、毛先の長さは、それぞれ四・六、一であつて、これは微差とはいい得ない。さらに、自動車用霜とり具としての用途、機能によつて規定される刷毛の基本的形態としては、植毛幅は柄部の長さ(通常六〇ないし八〇センチメートル)の二分の一、少なくとも三分の一であり、毛先の長さは柄部の長さの一〇分の一程度であることが一般的である。これらの点からすると、本件意匠の要部は、(1)歯ブラシ状の毛先が短く、植込み幅の小さな刷毛の部分、(2)溝形となした霜掻きとり部分、(3)霜掻きとり部分の長さの割に短い柄の部分を組み合わせたもの、すなわち、細長い丸棒の一端に、その植込み幅が丸棒の長さの約六分の一で、毛先が丸棒の長さの約二〇分の一の歯ブラシ状の刷毛を設け、丸棒の他端に、長さが丸棒の長さの約三分の一でコの字形溝形の二つのエツジを突出させた霜掻きとり部をT字状に設けたことにあるものというべきである。
(二) 控訴人は、両意匠のフレームにつき、長辺は短辺の約三倍の長さであつて一致している旨主張するが、以下に述べるとおり、フレームは平板状ではなく、複雑に折曲しているから、長辺と短辺の比が共通しているかどうかは両意匠の類否判断にはほとんど関係のないことである。すなわち、本件意匠におけるフレームは、控訴人主張のとおり、「長さをその丸棒の長さの約三分の一、上下幅を丸棒の長さの約一〇分の一として」、「その上側辺を外方に向け若干拡開させ、その下側辺を断面鋭角の二枚翼として外方に向け若干拡開させた溝形形状のものである」のに対し、イ号意匠におけるフレームは、控訴人主張のとおり、「長さをその丸棒の長さの約四分の一、上下幅を丸棒の長さの約一三分の一として」、「その上側辺を外方に向け若干拡開させ、その下側辺を断面鋭角の二枚翼としてやや後方に向けて成るジグザグ状のもの」、すなわち、コの字形でなく、<省略>状であつて明白に相違している。
また、控訴人は、両意匠は払拭部の基部が厚く、先端になるに従つて漸次厚さを薄くした先端部が尖つたものであり、他方のこすりとり部は末端がずんぐりと尖つた点が一致している旨主張するところ、細部においてやや類似の形状は存するが、単に両意匠におけるこすりとり部と払拭部の形状を比較しても意味がなく、前述のとおり本件意匠は、こすりとり部と払拭部をフレームに取り付けて全体の形状をコの字形溝形とした点が特異な形状であるのに対し、イ号意匠は、こすりとり部と払拭部をフレームに取り付けて全体を<省略>の形状としたもので明白な違いがある。
また、控訴人は、両意匠の柄部は長い丸棒で、長辺が短辺の約三倍の長さから成るフレームの上面中央に、丸棒を垂直状に取り付けた点において一致している旨主張するところ、全体がT字状である点は共通しているが、T字状であることは公知であつて、この点が共通していても両意匠が類似しているということにはなり得ない。むしろ、霜掻きとり部の寸法と丸棒の寸法との比が極めて重要である。すなわち、本件意匠は、霜掻きとり部の中央に長さが霜掻きとり部の約二・八六倍の丸棒を垂直に取り付けたものであるのに対し、イ号意匠は、霜掻きとり部の中央に長さが霜掻きとり部の約四.二九倍の丸棒を垂直に取り付けたものである。したがつて、フレームの幅が同一とすると、丸棒の長さは、二対三、実にイ号意匠の丸棒は本件意匠のそれの一・五倍の長さを有する。イ号意匠の丸棒と霜掻きとり部の寸法のバランスはより公知の意匠に近似しており、本件意匠は霜掻きとり部の長さの割に短い柄部を有することが特徴である。
さらに、イ号意匠は、本件意匠との対比において刷毛の植毛幅、毛先の長さ、量において明白に相違するところ、控訴人は、毛足の長短、織維の多少は量によつて目立つことによる差異にすぎず、このことは、物品の形状の同一性、それに色彩を施すことにより別個の意匠に見せようとする例と同じであつて、類否判断の支配的要素となるものではない旨主張するが、右主張は、物品の機能によつて規定される基本的形態を無視するものであつて失当である。すなわち、イ号物件は毛先が長く、刷毛の束数も多く、植毛幅も大きいはけ状をなしているからはじめて雪掃き作業が可能であり、これに対し、本件意匠の霜とり具では毛先が極端に短く、刷毛の植毛幅も小さい、いわゆる歯ブラシ状であるから雪掃きはほとんど不可能である。さらに、本件意匠は刷毛群の植毛方向が霜掻きとり部の長手方向と平行であるため、自動車の屋根のように平らな部分を霜掃きする際には、本件意匠の霜とり具では、霜掻きとり部が邪魔をしており、物品本来の機能を十分に果たすことができない。したがつて、刷毛群の取付け方向の違いも意匠の類否を判断するに当たつて重要な点である。
6 同6(一)は争う。
同6(二)(1)のうち、控訴人が申請外会社の取締役であることは認めるが、その余の事実は不知。同(2)のうち、申請外会社が「スノー・スクレーパー」を製造、販売していること、及び被控訴人が「スノーブレーカー」を製造、販売していることは認めるが、その余の事実は否認する。同(3)の事実は不知。
図面省略